Q 過去の作品はどのような気持ちで描いたのですか
日本画Q&A
公開日:2021.12.28
A
弟子になった最初の頃は、花や鳥を写生して絵にしました。写生は絵の基本なのでそれは一生続きます。
三十才の頃、日本画に西欧の絵の様な近代性を取り入れたいという気持になって、盛んに、油絵の様な感じの絵を日本画の絵の具を使って描きました。ピカソの様な抽象画にもあこがれ、そういう考えを日本画の中に取り入れたいと考えたりしました。
その次、四十才前後は自分の人生に対する考え方を絵にしたいと思いました。その頃家庭もあり、一応生活も出来る様になっていましたが、それだけにそんな平和の後にある「死」への不安を絵で表したいと思い、死んだ魚や動物の骨や、ミイラなどをテーマに描いていました。
四十才の半ば頃、宗達という江戸時代初期の画家の絵を博物館で見てびっくりしました。日本画はこんなに素晴らしいものだったと感動しました。そして、自分の考え方を絵で訴えるということではなく、自然の中にある自分を自然体で表わすことが日本画だと思う様になり、それ以来、素直な絵を描こうとしています。
私はアメリカとの戦争の時、丁度十九才でしたから当然兵隊として戦場に行って、あと1~2年後には戦死してこの世の中にいなくなってしまうと決心していました。それだけに残されたあと1~2年の間は一生懸命絵を描こうと考えていました。ところが兵隊に行く直前、戦争に負けて終わってしまいました。死ぬことを覚悟していた時の思いがその後、死んだ動物やミイラや黒い太陽を描いたりした時代につながっていると思い、そういう時代にめぐり会ったことは画家としては意義のあったことと思っています。