初入選の思い出  西田 俊英

同人コラム
西田 俊英

公開日:2022.01.19

 初入選作は武蔵野美術大学3年(21歳)の時に描いた「夏の日」です。

 生い茂った葛が、寄生している樹木もその下の放置自転車をものみ込み、モンスターのごとく日々増長していく生命感が面白く、時間をみつけては葉一枚一枚を丹念にスケッチしていました。1、2年生では50号位迄しか描いたことがなかったのですが、そろそろ大画面に挑戦してみたいと3年の長い夏期休暇中、その葛を夢中になって制作しました。当時、在学中に公募展に出品するのは・・・という雰囲気もありましたが、大学の助手先生が、近所のOB達で院展へ出品するトラック運賃の人数割りをしているが、一人増えれば運賃も安くなるから出品してみたら?と勧めて下さいました。

 高校迄は油絵ばかり描いており、情報もなく、日本画というと光琳や宗達の古典イメージしかなく、入学後初めて現代の日本画に触れ衝撃を受けたのが奥村土牛先生の回顧展の作品でした。それ以来、もし公募展に出品できるなら院展に・・、という憧れがあったので、大それた気持ちと嬉しさ半分で出品し、思いがけず初出品初入選という奇跡のような偶然が起こりました。

 会場で塩出先生にお会いして、褒めてくださるかな?とご挨拶をしたのですが、先生は「そうか、入ってしまったのか・・・入ってしまったら仕方ない。続けるんだぞ。」と。その時はきょとんとした私でしたが、今ではよく分かります。偶然で入選してみても、それを続けることは至難の技であり、修行だと。無垢の感動で描けたのは一切の邪念がなかったからで、以後、入選したいという雑念を払拭し描くことは、自分との戦いであると。

 今、私は大学で教える立場になり、塩出先生のお言葉を伝える生徒達がいます。彼らもまたいつかこの言葉の意味がわかるように、絵の道を真摯に歩み続けて欲しいと思います。